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「アライア、ただいま。」
「おかえりなさいミリッサ…って、誰ですか?この方は?」
今日も料理の支度を済ませた
僕は妹であるミリッサの帰りを待っていました。
街の外から帰ってきた妹は
疲れを癒すために眠っていることが多いのです。
不規則な生活は身体に毒だと言いたいのですが、
僕も深夜の時に聖堂へ足を運んでいることを知っているので、
そこを指摘されたら勝てません。
むしろ妹に勝とうとするのが無茶な話なのです。
そんな妹が帰ってきたのは夕方。
扉が開くとベルが鳴って妹の帰宅を教えてくれます。
リビングを飛び出して玄関で出迎えるのが、
最近の日課となっていました。
妹と同じ色彩が捉えたのは、見知らぬ男の姿。
顔の造りで年齢を判別しずらいですが、
明らかに妹よりは年上だと分かります。
男の方なのに香水の匂いが鼻につきましたが、
微かなので妹は気付いていないかもしれません。
お洒落を嗜む人?
僕の第一印象でした。
「この方は?」
僕は同じ質問を繰り返して尋ねました。
妹はいつも以上に上機嫌なのです。
と、言うよりも幸せそうな雰囲気が漂わせています。
そう滅多に見れるものではありません。
「えっとアライア、この方は…」
「俺の名前はシェンだ」
妹の声が被さるように男の人も名を自分から告げました。
僕は不思議に思いました。
声に出すと空気の振動が微かに震えていました…緊張をしているような。
そんな気がして妹に無言で問い詰めます。
あれほど僕との関係を他者にバラしたくないと
意地を張っていた妹の心境の変化に驚きだったのです。
「えっと、あの…あの…」
妹が口を開けたり閉じたりと続けて話をためらっていましたが
シェンさんが腕を前に出して首を振るいます。
なにやら二人の間に親密な会話が行われるのですが、
僕は瞬きするしかありません。
改めてシェンさんが僕の方を向くと頭を一度下げます。
つられるように僕もお辞儀。
顔をあげた時にはシェンさんが何か重要な話をする前かのような…
それぐらい緊迫した空気なのです。
僕は戸惑いながらも言葉を待ちました。
「えっとお兄さん、それともお姉さん?」
「いえ、僕は身内以外には性別は教えない主義なので。。。
どちらとして見ても構いません。
あ、ちなみに僕の名前はアライアです。」
「あぁ…、えっとじゃあアライア。話をしたいことがあるんだ。」
「はい、どうぞ言って下さい。」
どうしてシェンさんが緊張しているのか分からないのですが、
僕が聞いて心が軽くなるなら手助けしましょう。
「え、えっと、今日は報告があって…ミリッサと付き合って…」
「えっ!?」
僕はシェンさんが言い終る前に口を挟んでしまいました。
だって幾ら僕でも分かります。
妹とシェンさんの関係。
僕があんまりにも情けない顔をしていたのでしょう。
二人は顔を見合わせて「どうする?」と、
相談するのですが、内容を聞く余裕は僕にありません。
足がふらついて転びかけますが、
妹が腕を掴んで防いでくれます。
「あ、アライア!?」
「すみません。。。少々、驚いてしまいました。」
「…凄い動揺だな。」
あ、当たり前じゃないですか。
僕が『がぁら』にやってきてから、一ヵ月も経っていません。
独り身で辛いと聞かされていたのに
恋人の存在が舞い込むなんで予想もつきません。
妹が腕を掴んでいなければ、座り込んで唸っていたでしょう。
レイジさん、ハースさん、僕は祝福するべきなのでしょうか。
とても複雑な気持ちです。
「あ、それからアライア。
あとでシェンさんが運ぶのですが…新しく使い魔がいて…
一緒に暮らす為に部屋を二室用意してくれませんか?」
「二室?使い魔二人居るのですか?」
「いえ、使い魔は一人です」
「なら部屋は一室だけで問題無いかと思いますが。。。」
妹の目がシェンさんに向いていました。
僕に何かを察して欲しいような眼差しを浮かべているのです。
僕は一つの可能性に辿り着きました。
でもいきなり過ぎるかと思いませんか。
妹の手が僕から離れていくとシェンさんの腕に絡み付きます。
恋人らしい仕草が僕の前に繰り広げられます。
シェンさんも無言で見つめてくるのです。
きっと今の僕は情けない顔をしているでしょう。
妹が僕の肩をたたきました。
「…アライア、改めて宜しくお願いします。
今日から四人家族になりましたね。
ほら、この間家族が沢山欲しいとか口にしていたじゃないですか。」
「み、ミリッサ!!いきなり過ぎます。普通はもっと準備を踏むものですよね。」
僕が間違っているのですか。
聖堂に住まう神官達の姿を描きながら、
僕は歯を噛み締めて泣くのを我慢します。
妹を取られたような気持ちがありますが、
幸せなら仕方が無いのです。
無表情となった妹が幾らか笑えるのは
シェンさんの力があるからなのでしょう。
「わ、分かりました」
「アライア、構わないのですか?」
「僕が反対したら家から出ていきますし、
そんな事になったら、
何のために『がぁら』に来たのか分からなくなるので許します。
それに僕はミリッサが幸せなら良いんです。」
こうして僕の家に二人の同居者が増えました。
妹の恋人であるシェンさんと押しかけ使い魔のラザールさん。
頑張って働かないと。
新しい家族を支えるために僕の仕事はどんどん増えていく。
そしてその一週間後、僕は二人の結婚話をきいて衝撃を受ける事となる。
私は冷めた料理を前に身内の帰りを待っていました。
深夜から何処かに出掛けるのは知っていました。
いつもなら朝方には姿をみせるのですが、一向に帰ってくる気配がないのです。
窓から太陽の光が差し込みます。
この時間帯は台所に立ち料理を作る後ろ姿を眺めるのが日課なのですが…。
私は自身の作った料理を眺めます。
以前、酒場で見知らぬ男性に罵倒された
グラタンを練習してマトモなものが出来たのに…。
身内に食して欲しかったのです。
ガタン。扉が開く音が聞こえてきました。
私は何かあったのか心配をしておりましたが、
杞憂だったようです。
リビングに近づいてくる身内に私は慌てて無表情を貫き通します。
まさか心配していたなんて知られたら身内が調子に乗るからでした。
扉が開くと私は振り返ります。
「遅いわよアライア。私を待たせる気?
だから、毎回のろまだと言われ…アライア?何があったの?」
「何がですか?ミリッサ帰るのが遅くなってすみません。」
普通の方からみればいつもと変わらない
笑顔に見えますが私は騙されません。
身内と出会えってから何年の月日が経っていると思うのですか。
私は横に通りすぎる身内の袖を掴みます。
「…どうしたの?」
「。。。」
こんな態度に出た時は笑顔で誤魔化すのは
長年の付き合いから読み取れました。
案の定、いつもの笑顔でやり過ごそうとしています。
いつものパターンに私は眉を寄せました。
アライアの秘密主義は度が過ぎています。
魔力の残量が空気中から漂っているところから術を使ったようでした。
「仕方がないわね。
聞いても答えてくれないのは知っているわ…
でも、アライア忘れないでね。
私は…やっぱり言うのは癪だから止める。」
「。。。そこまで口にしたのにですか?」
知った事ではないです。
何も告げないのは私も同じなのですから五分な話。
そっぽ向いた私をしばらく身内は物珍しそうに
みておりましたがグラタンに気づいたのでしょう。
手に取ると「これ僕に?」と、
今更ながら質問をしてきたので「…知らない」と、返しました。
こんな時間まで待つのでは無かったですね。
身内の方が年上な筈ですが、
心配させる特技を持っているようです。
私も他人のことは言えませんが…。
身内は私の反応を気にした様子もなく椅子に座りました。
お世辞にも綺麗な出来ではありません。
真っ黒の灰にはなってはいないですが、
表面の焦げ目が身体に悪い程度の失敗はしています。
「や、やっぱり食べなくても良い。失敗したから…」
「。。。失敗は成功の始まりですよ。
ん、前よりもずっと美味しくなりました。
次は焦げ目をつけないように加減を勉強しましょう。」
「うん」
身内は私が欲しがる台詞を言ってくれます。
落ち込んでいたりすると慰めてくれたり、
甘やかせるスペースを私に提供までしますが…
私は身内が誰かに自分の事を話す姿をみたことがありません。
唯一許した相手は故郷に住んでいた…
思い出すのも腹立ちますから止めましょう。
「ねえ、アライア?」
「どうかしましたか」
「私はね、前まで誰かに頼ることは
迷惑をかける行為だと思っていたわ。
でも、沢山の人と関わって…
その考えが間違いだと気づいたの。
また、自分を犠牲にしてまで身体を壊すと
いう行動も周りを悲しませる事になるのも知れた」
私は椅子から立ち上がって
部屋に戻ろうと足を運びました。
流石に睡眠を削って待つなんて
慣れない行為をするものではありませんね。
身内に背を向けながら私はリビングの扉に手をかけます。
「でも私が口にしてもアライアは分からないと思う。
だから、この街で色んな方と関わって…
変わってくれたら良いと思う」
「ミリッサ…」
「あ…もう眠るわね!!
私、明日も患者をみないといけないから…おやすみなさい!」
慌てて扉を閉めました。
互いの顔が見えなかったのが私にとって救いでした。
こんな姿を身内に見られるなんて想像したら羞恥で死んでしまう。
私は階段を登りながら思いました。
目まぐるしい日々と出会いが心に変化をもたらした。
良いこと?
悪いこと?
それは私自身、判断出来ませんが幸せなのだから結果良しでしょう。
だからアライア。
私ばかりに目を向けるのでは無くて、自身の幸せを探して下さい。
妹が立ち去るのを確認したあと、
スプーンが手から放れて床に落としてしまいました。
震えている僕の指は限界を告げるかのように訴えかけてくるのです。
呪いを解いて衰弱した身体に人の記憶を弄る
高等術を使ったのですから当たり前なのかもしれません。
それにしても危なかったのです。
レイジさんに話してしまう所でした。
心を許してしまう傾向があります。
「ミリッサ。。。違うのです。
僕は怖いのです。人と深く関わるのが。。。
でも関わりを断ちたいと思えない。
だから皆同じにしないと。。。特別は駄目なのです」
愛する事は出来るけど愛されることは出来ない。
恋人だけではなくて兄弟愛、友情愛、家族愛。
僕は全てを否定するのです。
だからこそ僕は。。。
―
酒場でクロエを寝かした後の話です。
アライアの方向性を決めたとプロフで書いておりましたが、
こんな感じなHNとなりました。
人に対して純粋に信じるし、その人の為に必死にはなるけど、
逆のことをされるのは拒絶する。
このHNは恐らくミリッサ以上に心の壁は堅いかとww
好き嫌いの激しさは無い変わりに
純粋に懐いたりすることがまず無いww
だからこそプロフに書いていた通り10回ぐらい絡んだら、
流石のアライアも何かアクションを起こすかと思います。
懐かしい風景が広がると複雑な思いが胸を締め付けた。
゛がぁら゛から離れて一週間。
海を渡り山を越えた先に故郷はあった。
斜面に位置する地帯は穏やかであるが、
山賊が住み着いて問題となっている。
案の定、予感は当たっていた。
周囲を取り囲むのはでこぼこした背が並んだ男達。
不精髭が目立つ顔立ちが多い男らは
器用にナイフをくるくると、宙で回す。
黄ばんだ歯をみせた笑みは
実年齢より年食ってみえるだろうか。
「おい」
と、声をかけてきたのは、
多勢いる者達の真ん中で仁王立ちした男だった。
いかにも(周囲の反応から見ての判断だが)
この男が主導権を握っているようだ。
ずぅぅんーっと、男は地面を踏み鳴らして歩み寄る。
その堂々とした自信さに満ちあふれていた。
まるで獣の王者のような振舞いだ。
「で、何の用だ?」
「随分と重そうな荷物だな」
トランクに詰め込むだけ物をいれたせいで
止め具が外れそうなくらいパンパンに腫れていた。
背中にも袋を背負込んでいるのだから
目をつけられてしまうのは自業自得か。
ザッ、砂を払うように足を滑らせながら距離を保つ。
男が「ひゅー」と、残念そうに口笛を鳴らして肩を竦める。
「何の用だ?」
同じ質問を繰り返した。
パチン、男は返事をしない代わりに指を鳴らす。
円を描くかのように囲っている男らが一歩、一歩、距離を縮める。
男らの持つナイフの刃が太陽によって反射する。
その眩しさから意識を逸らすと、一斉に襲いかかる。
ダンっと、地面を蹴って跳ねる身体は宙へ高らかに飛ぶ。
目標を失った山賊が衝突して倒れた背中の上に着地すると、
荷物を脱いで、ぐるりっと身体ごと回して投げつける。
「ぐはっ!?」と、重みのある荷物にぶつかった男は
呻きながら後方に飛ばされる。
「いきなり失礼な奴らだな。
まあ、俺もここの治安はよく知ってはいるから
五月蠅くは言わないけどさ」
山道の斜面で戦闘は慣れないものだ。
足場が悪すぎる。
特に連日降り続いた雨が土を泥として変えてしまっていた。
ひぃー、ふぅー、みぃー、指を折りながら山賊の残高を確認する。
左の眼帯が距離感を掴むのに邪魔だ。
魔道書を使用するのは憚られる。
コントロールが下手な人間が術を使えば、木々に被害が及ぶ。
「おい、そんなぼんやりしていて良いのかよ!!」
「っち」
左側に回っていた男が真っ直ぐと
軌道を描いて喉に切り付けようとナイフを振るう。
魔術書を喉の隙間に入り込ませて盾代わりに防いだ。
穴が開いてナイフの先端が露となるが
頑丈なカバーのお陰で届かない。
ぐぃっと、男が柄を回してドリルのように抉ろうとする。
紙きれが頬に被る。
「さっさと荷物を置いていけば命だけは助けてやるけどどうする?」
「わりぃけど、俺は゛はい分かりました゛って、
口にする可愛い性格じゃねーんだよっ!!」
思いっきり両腕を伸ばして放しつけるフリをして、
無防備な男の足を引っ掛ける。
右肘の怪我が開き痛みが肌から
脳に伝わってくるが奥歯を噛んで我慢するしかない。
男の身体が倒れると同時に胸に手を当てて片目を閉ざす。
身体の中に眠る風乙女を呼び覚ますためにだ。
風の気が満たされると、
指を指揮棒のように振るい、
くるりっと、身体を回した。
「シルフっ!!!」
ゴオォォッと、周囲を覆いつくす風が
他者を寄せ付けんとばかりに吹荒れた。
無理に侵入しようと試みると、
風の刃が切り付けてくるのだ。
猛嵐の中心は静か。
ローブが外れないように掴む程度で済む。
風が止んだ時には山賊は地面に倒れていた。
ふぅっーと、息をつくと荷物を拾う。
緊張がほぐれると右肘の痛みが蘇る。
傷が開いてしまった。袖に染みが滲む。
旅立ちの日、ライブラの傷を貰ったのだが、
思った以上に深いものだ。
コツン、幹に額を当てる。
「いってぇ・・・デシフェルに気付かれなかったのが幸いだな。
心配ばかりさせて気負いだけはさせたくなかったし。
なあ、ライブラ。俺ら変に似てるよなー。
他人にはアドバイス出来るのに、
自分になると駄目だな」
垂れ落ちた血は地面を染める。
止血をしないと危ないが、無理をしてしまったようだ。
意識が保つのが精一杯。
靄がかかったかのように閉じていくのが分かる。
自力で立つのも限界となった膝は
小刻みに震えて訴えかけた。
゛早く誰かを呼ばないと゛と。
「シキミ、パシモ、イバオム、アイスちゃん、
ユンコ、アーリ・・・デシフェル。ごめん。」
途絶える意識の中で誰かの腕に包まれた気がした。
が、確かめる術はなかった。
『シスター、俺はアイツを生返らせるよ。
誰が止めても、どんな手を使っても、
俺を止める人間など居ない』
『ありがとう。その命は俺の研究材料として貰うよ。
男なんて死んでしまえば良いんだよ』
『ど、どうして、俺だ。わ、分からないのか、
あの時みたいに、俺を好きだと口に、』
「うわぁぁぁぁぁっ!!!」
ふり絞るかのような悲鳴があがると飛び上がる身体。
布団が雪崩れ落ちていく。
顔中にかいた汗が上から下に垂れて滴り落ちる。
乱れた呼吸を整えようと胸を抑えた。
次第に冷静さを取り戻すのを感じる。
破裂してしまうほど跳ねた心臓も正常なリズムで脈打つ。
「はぁ、はぁ、久しぶりに見ちまったな。」
「大丈夫かしら?Missリィントニア」
その名で呼ばれるのは久しぶりだった。
己の身なりと正反対の色を持った
法衣を纏うのはゴールドブラウンの40前後のシスター。
すぅっと、椅子の背もたれに手をかけながら立ち上がると
額とコツン、合わせる。
相変わらず子供として扱うのだから敵わない。
「シスター、エルレイン。貴女が私を運んで頂いたのか?」
「ええ。薬草を取りに行ったら血を流している貴女と遭遇したわ。
あとで下にいる子供達に感謝を告げなさい。
私、一人ではMissリィントニアを運べなかったでしょう。」
エルレインの額から伝わるのは暖かさと
言う名の生きている実感だった。
「おかえりなさい」と、
エルレインは素っ気ない挨拶を付け加えだが、
故郷に戻れた懐かしさから抱き締めることで応えてやった。
随分と年老いてしまったエルレインの身体は
細さと骨張った感触が大半、
それでも変わらないモノも確かに感じとれる。
再会を思う存分に堪能したあとに身体を放す。
「Missリィントニア、長旅お疲れ様でした。
事情は手紙の方で確認しております。
健康診断はあとに回すとして、
Missリィントニア」
前置きもなしに、ぐりっと、右肘を握り潰すぐらいの勢いが
身に染渡ると「いぃ!?」と、情けない悲鳴があがる。
ベッドに沈みこむ身体に関わらず強弱つけて
コントロールするところからわざとらしさを感じた。
聖堂に仕える者達は゛魔王゛だらけなのだろうか。
聖歌を歌いあげて治療を施してくれるが
ミシミシっと、骨が鳴るほど掴むのだから、
「ギブギブ(_;Д;)/彡☆」(俺の心境はこんな感じなんだ)
布団をダン、 ダン、ダン、叩きながら蹲る。
「Missリィントニア。
また、他人の傷を貰いましたね?
何度も口にしておりますが、
自己犠牲と呼ばれる行為は止めなさい。
どれだけMなんですか?それに・・・」
すっと、眼帯に指を添えると戯れるように端を下から上に撫で
「肉体の機能を停止にさせるぐらいまで無茶してどうるのですか?」
「・・・すまない」
「私は謝罪が欲しい訳ではありません。
Missリィントニア、貴女は゛あの日゛から、
死にたがる癖がありますね」
「あぁ。」
エルレインの指が眼帯から滑りおちると喉を思いっきり掴んだ。
息が出来ないくらいに強く強くだ。
「ならば、Missリィントニア。
ここで死にますか?私が救いだした命。
どう扱っても自由ですよね。」
「んっ・・・それは困る。シスター、エルレイン。
私は生きなければ・・・ならない・・・。」
「死にたがっているのに?」
「居なくなったら・・・路頭に迷う奴等がいるから」
「・・・。」
ようやく力んでいた指が緩む。
エルレインは理解しがたいと、
眉をよせていたが渋々と解放する。
痕が残っただろうか。
やけに染みるような痛みが脳に残像する。
ベッドの背に凭れかかりながら噎せる喉を幾度も擦った。
「シスター、エルレイン。
私の至らない考え故に機嫌を損ねたことを謝罪する。」
「謝罪はしてもMissリィントニア、
貴女は変わらないのでしょう。いつまで自分を罰するのですか。」
「私の命(魔力)が尽きるま・・・シスター、エルレイン?」
再び伸ばす腕から息を飲んだが、
予想に反して叱るものでは無かった。
胸元まで垂れた黒髪を一束に掬いとり梳かした。
クシのように根から先端まで通すと髪が戯れ揺らめく。
「Missリィントニア、貴女は成長はしました。
以前の貴女ならきっと死ぬことに躊躇しないでしょう。
けれど少しでもMissリィントニアの気持ちを引き止める
゛何か゛が増えたことに神に感謝します。
・・・しかし、まだ貴女は生の大切さに気付いていない」
「大切さ?」
「そう。Missリィントニアは理解することができるかしら?」
さら、さら、エルレインの手から
全ての髪が零れ落ちると腕を引き戻した。
すぅっと、垂れる裾を抑えると立ち上がる。
見下ろすアイスブルーから感じたのは複雑、哀れみ、同情。
「シスター、エルレイン何が言いたい?」
「Missリィントニア、それは己で考えるのです。
そうでは意味がありません。
それよりも今から身体を調べましょう」
指揮棒のように指をリズムカルに跳ねながら陣を描いていく。
空中に浮かんだ古代文字が光となりて己の周囲に飛び回る。
文字の羅列は読み取れない難解なものだ。
使役する術師自体も理解はしていないだろう。
力を抜いてベッドに凭れかかる。
エルレインの指がすぅっと、
一文字を描くと漂う文字が迫り肌に溶け込む。
馴染む頃には赤い筋が紋章
(あまりにも複雑過ぎて説明するのが難しい)が
全身を駆け巡り表として肌に露となった。
エルレインが笑った。
「・・・嫌い?」
「毎回の事だから慣れている。
だが、好みを聞かれると答えは嫌いだ。
身体をまさぐられるような感じが気にくわない。」
と、首を回しながら解す素振りを見せつつ、
内部から感じる気持ち悪さは隠さずに眉を寄せた。
土足で家にあがられて問答無用で家具などを荒らされた感。
鳥肌がたってブツブツが出来るほどだ。
「何とか、このメンテナンス方法を改善してほしい」
「Missリィントニア、ならば貴女が無茶しない事ですね。
・・・私は貴女よりもずっと早くに死にます。
その後、一人で体調を管理しなければなりません。
私の言いたいことは分かりますね?」
゛死゛と、言う単語を嫌うのを知った上で強調して言うか。
エルレインは子供に躾をするようにゆっくりとはっきり告げるのだ。
「Missリィントニア」
「私は相方を見つけたら、
その方に仕えて危険が迫れば
身を捧げて死ぬつもりだ。
それが私の罪を償う方法であり、
変わらない揺るぎの無いものだと信じていた」
「今は?」
と、エルレインの問いかけは笑って誤魔化した。
正直、分からない。
相当へんてこな表情を浮かべていたようだ。
術を操る指がピタッと、宙に浮かんだまま停止する。
エルレインは「生について悩みだしただけでも上出来な方ですね」と、
苦笑するとメンテナンスする為に再開を始めた。
―――
一週間目終了。
マシィは故郷に戻っている間に
色んな事を考えていると思います。
それにしてもマシィが゛私゛と使うと
気味が悪いと感じるのは俺だけ?